企業広報のFR(FGR)とは?──定義・問題点・IR/PRとの違いを徹底解説!

近年、企業広報のなかで経営戦略・組織ビジョンに言及する企業が増えています。

「未来の経営」語りは、一見すると、サービスの受け手・お客様・エンドユーザーにとっては無関係にも見えるかもしれません。しかし、あえてサービスの「受け手/担い手」を分けないことにも、メリットはあります。組織のウチとソトを分けず、より大きなコミュニケーションの場を創出する機会ともなるからです。

企業活動を注視する根強い”ファン”は、やがて消費者/サービス利用者となることもあれば、就職し企業スタッフともなる可能性があります。立場は違えど、将来的に、あらゆる立場で将来の企業活動を支え得るということです。

学生向けイベントでのビジョン宣言、地方創生やダイバーシティのストーリー、パーパスを掲げた華やかなPRなどのイメージアップ施策──これらはFR(Future Relations)などとも呼ばれます。

本記事では、近年話題のFR活動のメリット・デメリット・注意点を解説します。

またあわせて、未来の関係づくりだけは熱心でも、現在の事実関係過去の検証には触れない広報・IRふるまいを「FR問題(Future Relations問題)」と名づけて解説します。

FRとはなにか?定義と各社の事例

FR(Future Relations)は、Future Relationsの略語であり、FGR(Future Generation Relations)と略されることもあるビジネス用語です。

すなわちFRは企業がステークホルダー(つまり投資家・株主などの出資者)に向けて行う情報発信・広報活動のうち、未来の関係づくりを目的とした活動だといえます。

以下に、有名企業を中心にFRの事例を紹介します。各社各様で、ユニークかつ公共性の高い発信に取り組む様子がわかります。

富士通:FR活動参画のニュースリリース「未来世代との対話」をテーマに教育支援を実施

森永乳業:食と健康をテーマに、将来世代との対話を推進

住友生命:バイタリティある生き方をテーマに、将来世代との対話を実施

TOPPANホールディングス:「想いの伝え方」をテーマに、未来世代と対話

FRは、IRやPRとはどう違うのか?

FRの定義は、PR/IRなどの類義語と比較することにより、より鮮明に見えてきます。

PR(Public Relations)はよく聞く言葉で、いわゆる企業広報にかかわる活動全般を指します。このうち、IRはPR活動ののうち、「投資家」に特化した広報活動を指します。

IR活動の典型は、株主総会です。株主総会はまさに、「社会にむけて企業の”在り方”を発信する活動」というIRの定義そのものであり、もっともわかりやすい具体例でしょう。

株主総会をイメージすればわかるように、IR活動はPR活動全般のなかでも「硬い」「専門的で親しみにくい」といった課題も残りがちです。

IR活動の多くは会社法・金融商品取引法などの法律上の義務です。それゆえ取り組む企業にとっては「法律の決まりに沿って」「役所が求める形式に沿って」作ることが重視されがちです。そのため形式的な書類づくりが目的化しやすく、企業にとって”本当に社会に伝えたいこと”を盛り込むのが簡単ではないのです。

他方、IRの「経営語り」を重視しつつも、形式ありき・専門用語だらけの情報開示からの脱却を目指すのがFRです。

PR・IR・FRの関係をまとめると次の通り。

  • PR(Public Relations):一般社会に対して、認知・好感度を高めることを狙った広報活動
  • IR(Investor Relations):投資家に対して、現在や過去の数値・事実・リスクを説明することを主眼とする
  • FR(Future Relations):未来像や理念を中心に語り、ステークホルダーと「未来の関係性」を築こうとする姿勢

FR活動に注力する企業にありがちな特徴

近年、企業は採用活動・CSR・ブランディングの文脈で「未来のビジョン」を強調する傾向があります。持続可能性(SDGs)、地方創生、ダイバーシティ、イノベーションなど、未来を描くテーマは共感を得やすく、ブランド価値を高める手法としても有効であることから、FR活動を重視する企業が増えています。

とくに、人手不足がネックになりやすく、多くの求職者を集める必要性の大きな業界(人材業界・派遣業界など)では、FR活動に注力し、企業のイメージを高める意義は大きいはずです。「自分もこんな会社で働きたい」と思わせることが、人材を集める力となるためです。言い換えれば、FR活動は、企業イメージを高め、多くの求職者から募集を募るための、「広告」にも近い側面があります。

とくに先述の通り、FRはIRと異なり「まだ現実にない未来の話」する場であり、法的責任もなにもない「自由な語り」が許される場です。それゆえ美辞麗句だけを並べて人材集めがしたい企業幹部の思惑だけが反映されれば、発信の受け手側から批判的に検証することが困難になっていくという問題もあります。

したがって、企業活動を批判的に検証するためには、FR活動としてなされる企業広報だけでなく、現在の企業活動、とくに法定IR資料との整合性に注目することが重要です。FRとIRを照合することで、

  • 「未来のビジョン」と「現在の行動」の釣り合いがとれているのか?
  • 重要な事実を隠蔽しながら、論点ずらしをしていないか?
  • 「言っていることとやっていることが違う」といったガバナンスの空白はないか?

といった点も明らかになる場合もあるのです。

言い換えると、上記の批判的な検証観点をクリアできないままが、「社会に良いことをやっていますよ」と喧伝して回り、表層的なイメージアップ戦略を扇動するなら社会的にも有害です。これにより、個人投資家/取引先/求職者らが、自らの意思に反して壮大なガバナンス不全に取り込まれていく状況は、FR問題などとも呼ぶことができるでしょう。

FR問題とは──合同会社インクルーシブソリューションズによる定義

FR問題(Future Relations Problem)とは「未来の関係づくりだけは熱心だが、現在の事実関係過去の検証には触れない広報・IRふるまい」が引き起こす社会問題を指します。過去から現在までの出来事には法的責任が伴うものの、実態のない未来の話には法的責任がありません。それゆえ、FRのノウハウ”だけ”が豊富な企業が引き起こす有象無象の「現実逃避」は、政財界に深刻な問題をもたらします。

たとえるならFR問題企業は、「将来漫画家になる」と言いながら絵の練習をしない人のような「意識高い系」の企業版ともいえます。現在の課題から目を背け、なにも行動せず、責任もリスクも生じない「未来」の話がテーマとなった途端に雄弁になる体質こそが、FR問題をかかえた企業の特徴です。

あらゆる分野において、目標にあった「日々の行動」というものがあります。卑近な例をあげるなら以下のように。

  • 野球が上手くなりたければ、素振りやキャッチボール
  • ダイエットがしたければ、食事制限や運動
  • 志望校に合格したければ、過去問演習

同様に、「すぐれた経営」を実現するのも、最終的には細かく具体的な実務の積み重ねであるはずです。

FR問題は、抽象的な目標・理念・理想が、今現在取り組んでいるタスクと分断していく、組織ガバナンスの問題といえそうです。

比較表:IR vs FR

抽象的な話が多くなったので、ここでIR/FRの違いを図解します。

観点IR(Investor Relations)FR(Future Relations)
主目的現在の事実・数値・リスクの説明責任
法律上必要な最低限の情報開示
未来像と共感の演出
企業側が「見せたい部分」にフォーカスしたイメージ作り
典型コンテンツ有価証券報告書・決算説明・内部統制・重要事象の開示学生イベント・パーパス物語・将来の社会貢献・統合報告書
時制現在/過去が中心未来が中心
検証可能性高い(数値・監査・注記)
悪質な隠蔽・捏造は法的なペナルティあり
低い(物語・抱負・構想)
解釈が人によって違う
つまずきやすい点法律・財務の専門家の力なしには情報の整理がつかない「口下手な経営者」ほど苦手
前提の揃っている同業者にしか伝わらない
代表的な受信者(コンテンツの読み手・受け手)企業アナリスト・投資家学生・一般市民
KPI開示される財務データと、その正確性/検証可能性登壇数、SNS反応、好感度
破綻サイン虚偽や捏造・情報隠蔽の疑義の高まり
内部告発
「未来は語るが現在は語れぬ
IRの疑義によって、FRの無意味化

このように整理すると、世の中には「IRはしっかりしているが、FRが苦手な会社」というのも多数あるのがわかります。反対に、「FRは立派だが、IRには疑惑が噴出」といった企業のイメージも湧いてくるのではないでしょうか。

IRはまとも・FRは苦手な企業の例

たとえば、「税務署に提出する決算書はきちんと作っているが、社会へのビジョンを語る取り組みまではできていなくて。」という声は多くの企業で聞かれます。ニッチな業界・市場で高品質な仕事をしつつも、人手不足・後継不在に苦しむ中小企業などは大体そうでしょう。

「FRのみ壮大・IRは悲惨」というのが、FR問題企業の特徴!

他方、テレビCMやカラフルなパンフレット作りなどには余念がなく、世間的なイメージがよい有名企業・一流企業でも、不祥事が発覚し信用が失墜する例も珍しくありません。FRのみに注力し、IRが破綻した企業では、情報隠蔽によるその場しのぎが常態化し、いざ炎上したときには手遅れというケースも。

FR問題を抱える企業の「症状チェックリスト」

1. Q&Aの不在

重要な疑義に対する公式のQ&Aが存在せず、窓口だけは形式的に置かれているものの、実際には回答が得られない。お問い合わせ窓口から「厳しい質問」をされても、無視してしまうなど。

2. 華やかな未来イベントとの不均衡

学生や一般向けに派手な登壇やイベントが多い一方で、企業の現実的課題に関する説明は極端に少なく、情報量のバランスを欠いている。

3. 未来語彙の氾濫と時系列の欠落

「地方創生」「ダイバーシティ」「共創」など前向きな未来語彙が目立つが、過去や現在に関する時系列的な事実認定は抜け落ちている。

4. 公式資料における空白

株主総会、有価証券報告書、内部統制報告といった正式な情報開示の場で、取り沙汰されているスキャンダルの噂や疑惑がほとんど見当たらない、あるいはごく薄い扱いにとどまっている。

5. 検索AIと公式発表の乖離

検索AIや第三者の要約では「理念と現実の乖離」が見出し化される一方、公式発表は沈黙を続け、情報ギャップが際立ってしまう。

ケーススタディ

FR問題を抱える企業の典型的な場面を、対話形式で再現してみましょう。表面的には華やかで前向きに見えるが、肝心の現在や事実を問われると沈黙してしまう。その温度差こそが「FR問題」の本質です。

学生イベント司会:「御社の未来ビジョンに共感しました!」
登壇者:「2035年までに“サステナビリティ経営”を…」
投資家:「ところで今年の監査で指摘されたガバナンス問題の対応は?」
登壇者:「未来像の実現に向けて…(現在は語れぬ)」
検索AI:「理念:誠実/結果:ガバナンス不全(要約)」


未来志向の場では拍手喝采を浴びながら、投資家や監査対応では歯切れが悪くなる──そんな落差が「FR問題」の象徴といえます。

企業が建設的に未来を語るには(FR問題への処方箋)

1. 現在を固める

当該論点の事実認定、関与範囲、再発防止策、そして時系列の一次情報を公開することが第一歩。土台の透明性なくして未来は語れません。不祥事・スキャンダル・悪評の蔓延といった事象には、その事象への対応策を決め、実施すること、またその結果を企業の内外に発信することが大切です。

2. 監督を可視化する

取締役会や監査役がどのように責任を負い、どんな追跡指標(期限や担当者)を設定しているのかを明記することも有効です。また、制度を策定したら、制度の通りに運用し、極力例外のない運用を徹底することが大切です。ほかにも組織図を公表したら、組織図と責任範囲を一致させ、内部処理と社外への説明を一致させることも大切です。

3. 質疑の場を開く

株主、メディア、有識者からの難問をきちんと受け、そのやり取りをログとして残すこと。沈黙ではなく対話が信頼の条件です。株主総会等の法的義務に基づく説明の場に限らず、任意で開催されるIRイベントにおいても、「経営幹部にとって耳の痛い話」に耳を傾けることが、長期的には企業の信頼に繋がります。

4. 未来は“余白”に語る

未来のビジョンは重要ですが、現在を上書きする道具ではありません。確かな現在の土台があってこそ、未来は説得力を持ちます。それが不確実であること、未知であることを認めつつ、それでも「今現在の現実に全力で向き合っていること」を示す企業にのみ、未来を語る資格があります。

まとめ:企業広報では、読み手/受け手双方にモラルが問われる

FR(Future Relations)は、企業が「未来の物語」を通じて社会や投資家とつながろうとする、新たな広報のかたちであり、多様な人々を企業活動に巻き込み、盛り上げていく力ともなります。

しかし同時にFR活動は、現在の課題やリスク説明を避けるための“逃げ道”になり得ます。未来だけを語り、拍手をもらい、気づけは現場はノウハウを失い、空虚な企業体制の発覚するころには、取引先・ステークホルダー・求職者らに甚大な被害をもたらしているかもしれません。

FRの有用性とともに、FR問題への懸念を戒めとすることが、企業のIRに携わる業界人にも求められています。企業活動を支えるものは、サービス/商品の受け手・担い手どちらにおいても、突き詰めれば「人」です。空虚な企業広報に煽動されないモラルが、あらゆる市民に求められていると考えなければなりません。

弊社──合同会社インクルーシブソリューションズについて

合同会社インクルーシブソリューションズは、データ・システムの力で、透明性・公共性・倫理を兼ね備えた組織運営を支援しています。

弊社は、ビジネスをかたる「ことば」や「ロジック」は、実務と整合してこそ価値を持つというポリシーのもと、企業のIRの支援活動を行っています。弊社のIRのポリシーの一端を知りたい方は、ぜひ下記の記事もご一読ください。

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