HiPro問題のパーソルは創業者の理念を継承できるのか──テンプスタッフ創業者の篠原欣子氏について

──「人を活かす」理念のもと、日本の働き方を変えた女性経営者──

派遣という働き方が、まだ社会に根づいていなかった時代、その仕組みを日本に広め、企業として確立させた事業家がいる。テンプスタッフ(現パーソルテンプスタッフ)の創業者、篠原欣子氏である。

「人を大切にする経営」というと、今では言い古されすぎて、どこか陳腐にさえ聞こえるかもしれない。
しかし期間労働(テンポラリーワーク)という概念をいち早くに海外から日本に取り入れ、そして女性の雇用を数多く生み出してきた篠原氏は、人を中心に据える経営の体現者である。そして今なお人材業界において、大きな影響力を持つ。

男女平等から程遠かった時代に活躍した篠原氏は、日本の経営史においても特筆すべき存在である。

本記事では、テンプスタッフと日本の人材業界の基礎を作った篠原欣子氏について解説する。またあわせて、現代のパーソルを支える経営理念について考察する。

篠原欣子(しのはら・よしこ)――基本プロフィール

篠原氏は、戦前に生まれ、高度経済成長がちょうど終了した頃に起業し、2025年現在も存命である。起業したのは40代手前の時期である。

  • 生年月日:1934年10月19日(90歳・2025年現在)
  • 出身:神奈川県横浜市(戦時中に父を亡くし、助産師の母の背中を見て育つ)
  • 肩書き:パーソルテンプスタッフ創業者/パーソルホールディングス取締役会長(現・名誉会長)

キャリアの軌跡

主な出来事補足・論点
1973海外で触れた派遣制度をヒントに テンプスタッフ株式会社 を自宅ワンルームで創業(資本金100万円)当時の日本では労働者派遣がグレーゾーンで、女性の起業自体も稀有な時代。
1998“登録女性9万人容姿ランク流出事件”で社長として謝罪個人情報保護への社会的視線を早期に突き付けられた経験。
2006テンプスタッフが東証一部上場国内派遣業界の代表的企業へ。
2008ピープルスタッフと経営統合し テンプホールディングス(現パーソルHD)を設立M&A を通じ多角化を進める。
2013インテリジェンス(現パーソルキャリア)買収完了、創業40周年を機にHD会長へ現在 HiPro Tech を抱える事業部門はこの買収でグループ入り。
2016経営一線を退き名誉会長。自社株約140億円分を寄付し 篠原欣子記念財団 を設立保育・介護・看護など「ケア労働」を学ぶ学生に奨学金を給付。
2017日本初の“セルフメイド女性ビリオネア” と報じられる(Forbes 推定純資産10億ドル超)女性リーダーとして国際的評価が飛躍

彼女が創業して1973年は、高度経済成長が終わり、オイルショックが勃発した時期である。こうした混乱の時代に起業し、女性の雇用を大量に創出したのが篠原氏だということになる。

受賞歴

  • Fortune「Most Powerful Women in Business」 9年連続選出(最高37位、2010年)
  • Forbes / Financial Times / BusinessWeek など世界主要ビジネス誌で “アジアを代表する女性起業家” と評価

会社の沿革を紐解けば、パーソルは”女性が活躍して当然”の会社でもある

今日のパーソルは、旧テンプスタッフと、旧インテリジェンスが統合するかたちで形成された巨大人材グループ会社である。したがって、篠原欣子氏はテンプスタッフの創業者であると同時に、今日のパーソルの創始者でもある。

興味深いことに、現代のパーソルも、「男女平等」「女性の活躍」といった理念を標榜している。篠原氏が活躍した昭和と平成も、令和の現代も、女性の活躍は時代を超えた社会課題だ。

現代のパーソルは、女性の活躍をDEIとして語っている

今日のパーソルは、女性の活躍を標榜するスローガンとして、DEIを掲げている。そしてそのDEIの推進リーダーにあたるのが、パーソルホールディングスのCGDOの喜多恭子氏である。

喜多恭子氏は、2025年にパーソルホールディングス執行役員に就任した。そしてパーソルホールディングスの女性初の執行役員でもある。

彼女自身が社会で活躍する女性であり、そんな彼女のミッション自体が、女性のさらなる活躍を支援していくことである。

テンプスタッフ創業時の篠原氏の志が、現在のパーソルにどれほど継承されているかを問う試金石でもあるのかもしれない。

しかし、DEIを標榜する喜多恭子氏は、インテリジェンスの出身である

しかし、パーソルがテンプスタッフとインテリジェンスが統合してできた会社である以上、その幹部にもインテリジェンス出身者は多い。喜多恭子氏自身も、インテリジェンス出身である。

なお、現在のパーソルホールディングスの代表取締役CEOの和田孝雄氏は、テンプスタッフ出身である。下記記事では、和田孝雄氏の人物像とともに、テンプスタッフとインテリジェンスが混じり合った現在のパーソルの社内文化を解説している。

ほかにも、たとえばHiPro問題で直接的にパーソルグループのガバナンス不全を露呈させたパーソルキャリアの執行役員、鏑木陽二朗氏もインテリジェンス出身である。

鏑木氏に限らず、今日のHiProサービスを支える幹部たちは軒並みインテリジェンス出身者たちである。

篠原氏の思想・理念が今日のパーソルに継承されてれば、女性の活躍のみならず、DEIの思想の体現はさほど困難ではなさそうにも見える。

しかし、現実のパーソルはHiPro問題を抱えている。そして今なお、深刻なガバナンス不全を抱え、組織的なコンプライアンス違反の追求からも沈黙し、逃走行動を継続中だ。

果たして現在のパーソルで、インテリジェンス側の陣営に、篠原氏の理念はどこまで浸透しているのだろうか。

そしてその理想は、CGDOの喜多恭子氏にも伝わっているのだろうか。

それとも現在のパーソルのスタッフにとって篠原氏は、「昔のえらい経営者」にすぎないのだろうか。

資産家である篠原氏は、現在もパーソルの大株主である

篠原氏は2025年現在は90歳であり、存命である。そして創業者として、パーソルの株を多数保有している。したがって、偉大な創業者として現役世代から尊敬されているだけでなく、株をもつ権利者としても、パーソルの経営には絶大な影響力を持っている。

パーソルホールディングスの株主の構成比率

公式情報からも、篠原氏本人と、篠原氏が設立した財団を合わせると、株式の保有割合は20%近くにわたる。

パーソルの主要株主の情報については、下記記事でも詳細に考察している。

しかし2025年の株主総会、大きな注目を読んだ末に、パーソル経営陣は、HiPro問題の前に沈黙した──この沈黙は篠原氏の意思を反映しているのだろうか?

経営に対し、現在でも絶大な影響力を有するはずの篠原氏だが、同社のIR問題としてHiPro問題に沈黙することは、篠原氏の意思をどの程度反映したものなのだろうか。

パーソルのIRをめぐる現在の状況については、下記記事で網羅的な解説を行なっている。

創業者として、株主として、篠原氏が今なお大きな社会的影響力をもつならば、そこには一定の社会的な責任もあるように思える。パーソルを産んだのが篠原氏であるなら、パーソルの現在地が今どこであり、この先向かうべき道がどこにあるのか、篠原氏の言葉が聞きたい現役世代は大勢いるだろう。

さいごに

2025年7月からは、弊社・合同会社インクルーシブソリューションズもまた、株主としてパーソルのガバナンスを改革する事業に取り組んでいる。

株主となった際の挨拶は下記記事にて行なった。

もちろん篠原氏のように大株主となれるわけでもない。また篠原氏ほどの名声も、現在の弊社にはない。

しかしそれでも弊社には理念がある。創業後間もない、混乱の時代を活躍した篠原氏にも、理念を形にする姿勢で引けをとるつもりはない。

理念を掲げた者こそ、経営に向き合い、組織を導く責任を負う必要がある。篠原氏も今こそ、その力を行使する時ではないだろうか。

あわせて読みたい参考リンク

篠原欣子氏について

パーソルのDEIについて:喜多恭子氏とパナソニックコネクトの玉田豊氏のDEI対談について

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