2025年7月25日、パーソルホールディングス株式会社は、自社Webサイト上で、特定非営利活動法人シブヤ大学に対して寄付を実施したことを公表した。
記事によれば、この寄付は「はたらくWell-being Donation」と呼ばれる同社のCSR活動の一環で、幕張メッセで開催されたイベント「磁石祭ZERO」の来場者の笑顔を測定し、その“笑顔スコア”をポイントに換算して寄付金額を決定するという趣旨とされる。すなわち、一種の社会貢献活動(CSR)といった建前でなされたということである。
しかし、同社グループの中核企業であるパーソルキャリア株式会社において、現在「HiPro問題」と総称される一連のガバナンス・コンプライアンス問題が未解決のままだ。したがって、パーソルの本業である人材紹介・仲介業において現在多数のコンプライアンス違反が大々的に告発を受けており、その資金源の透明性は担保されていない。
まず、本業と異なる領域で”チャリティ活動”をPRする傍ら、本業・ビジネスモデルのレベルでの違法性が大々的に指摘され、パーソルは”沈黙”を続け、説明責任を放棄する現状は厳しく批判されるべきなのは勿論だ。しかしそれだけではなく、資金提供を受けるNPO法人のイメージダウン/評判リスクすら引き起こしかねず、パーソルの外部にも悪影響を及ぼしかねない点は、社会的な懸念でもある。
こうした判断に基づき、パーソルと共同で公益活動・CSR活動に取り組む企業・団体にむけ、ここに注意喚起を行います。
事案の要旨
資金提供がなされた正確な日付が不明であるものの、提供日が、2025年07月25日とされていること、N高グループの文化祭「磁石祭ZERO」の開催にあわせ、4月26日(土)~27日(日)に行われたイベントで蓄積したポイントを換金したものであることから、2025年の初夏の季節になされたものだと推察される。
資金提供者の正確な名義は、パーソルHDのCEO・和田孝雄氏
情報によると、名義人はパーソルホールディングスの代表取締役の和田孝雄氏とされる。
シブヤ大学とは──渋谷区全体を“キャンパス”に変える学びのプラットフォーム
シブヤ大学は、正式には、特定非営利活動法人シブヤ大学(英:SHIBUYA UNIVERSITY NETWORK)という。シブヤ大学は「まちがまるごとキャンパス」というビジョンを掲げる市民参加型の生涯学習コミュニティであり、誰でも無料で受講できるオープンな「授業」を街角で開講している。
シブヤ大学の正式な法人情報は、下記の内閣府のホームページにも公開されている。
- 法人登記:NPO法人
- 設立認証日:2006年8月10日
- 法人所在地:東京都渋谷区本町5-22-1
- 代表理事:左京泰明
- 法人番号:8011005002139
2023年度の活動報告書によれば、1,600講座超/参加者45,000人超を記録している。また、ユネスコの“Learning City”モデルケースとして国際的にも紹介されるなど、社会的にも非常に影響力のある団体である。
大澤悠季氏について
記事に登場するシブヤ大学の学長・大澤氏については、シブヤ大学の公式サイトに人物紹介がある。
1992年東京都生まれ。2015年立教大学観光学部卒業後、イギリスへ留学し、社会的なトピックが気軽に話される光景に衝撃を受ける。帰国後は、沖縄県今帰仁村にて高校魅力化プロジェクトに携わる。高校生と地域の大人がともに学ぶ環境づくりに力を入れる中で、大人が楽しく学び続ける姿勢の大切さに気付く。自分たちの生きる社会について安心して話せるプラットホームをつくることを目指し、シブヤ大学で授業企画・ブランディングに取り組んでいる。
シブヤ大学の特色でもある”学びの地域性”は、大澤氏の観光学での学位・留学経験を深く反映したものでもあるのだろう。
Well-being推進室長の中山友希氏について
また、パーソル側のメンバーとしては、グループコミュニケーション本部 コミュニケーション部 はたらくWell-being推進室室長の中山氏が資金提供者として登場した。
中山氏についての情報は、パーソル側公式情報で確認できる。
2007年新卒入社。インテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社し、営業、経営企画、事業企画を経て、2018年にアンカースターへ出向。パーソルホールディングスに帰任後はミッション策定プロジェクトに携わり、ビジョン・ミッションパートナーシップ担当を務める。2023年4月、はたらくWell-being推進室の室長に就任。
グループコミュニケーション本部のメンバーであることから、中山氏は、本部長の村澤知典氏の部下であることもわかる。
シブヤ大学への資金提供がなぜ問題なのか?──会計の適法性が担保されておらず、資金源が不明だから
本件で特に留意すべきなのは、パーソルキャリアが抱えるHiPro問題が現在も未解決であるという点にある。
同社のタレントシェアリング事業部に属するHiPro Tech統括部では、以下のような重大な法的・倫理的問題が、既に2025年春から繰り返し指摘されている。
- 非弁行為(弁護士資格のない営業担当者が契約交渉を実施)
- 曖昧な契約構造により、業務委託者に法的リスクを転嫁していた疑い
- 問い合わせに対し名乗らない「カスタマーセンター」からの、「弁護士を出す」というハッタリに基づく恫喝的宣言
- その後、責任者である野村鉄平氏は失踪し、数ヶ月間消息不明
野村鉄平氏の詳細は、下記記事で解説している。
こうした一連の経緯に基づき、「違法性が指摘された業務に基づく報酬」が、売上として計上されている可能性が強く疑われている事態である。しかも、違法性を明確に指摘されてなお、パーソル側からは正式な見解や謝罪表明は一切示されることがないまま、数ヶ月間”沈黙”を続けている。この状況においては、
- パーソルキャリアは、タレントシェアリング事業部のHiPro Tech 統括部の事業が違法であることを、事実上認めている。
- 認めているにも関わらず、被害者に対する補償を怠り、自社の責任を投げ出している
と評価して差し支えないだろう。
このように、自社の活動が事実上違法であることを認めているにもかかわらず、その説明・是正を行わないとなれば、「違法な活動で得た資金を、別のところでCSR活動として寄付を行っている」経緯にも見える。この場合は、社会的にみて妥当性のない「世論対策」であり、「目的外支出」とみるべきであり、社会的にも厳しい非難を受けるべきと考えられる。
参考:売上の疑義と「内部統制」の問題を指摘した過去記事
HiPro問題の会計の不正疑惑に関しては、過去にも以下の記事で、パーソルの会計・契約実務の整合性について問題提起が行われてきた。
内部統制報告書の記載で、パーソルHDのCEOの和田孝雄氏がすでに「異常なし」とサインしてしまっている
たとえば下記記事では、「内部統制に異常なし」と宣言された内部統制報告書の疑義として、会計業務の適法性を明確に問題提起している。
この記事では、財務報告における内部統制の形式主義的な記載と、実務上のガバナンスの不全との間に重大な齟齬があることを繰り返し指摘してきた。
仮に、そうした不正が組織的に把握されていたうえで訂正も反省も行わずに売上を得ていたのであれば、その資金を使って社会貢献活動を行うこと自体が、「公益を装った転用」とみなされる懸念はないのだろうか。現状、パーソルは本件に否定も反論も何もできていないので、グレーは疑惑は日に日に黒に近づいているように思われる。
HiPro問題も、パーソルが「エンドクライアントを一方的に違法行為の共犯者に巻き込もうとしていないか?」と尋ねられたことから始まった。──パーソルは仲介業務で、業界関係者に迷惑ばかりかけ続けているのではないか
下記に、2025年3月28日9時16分に、合同会社インクルーシブソリューションズから、パーソルキャリアの代表問い合わせに行った問い合わせメールの全文を掲載する。なお、本メールには、「法務ご担当者様」と明記しているが、法務からの返事は今なお来ていない。
お問い合わせ内容:
パーソルキャリア株式会社
法務ご担当者様
お世話になっております。
合同会社インクルーシブソリューションズ代表の安部と申します。
現在、貴社のHiPro Tech仲介案件に関して、重大な契約上および法的問題について、野村鉄平氏宛に問い合わせを行っておりますが、既に4日以上にわたり、貴社からのご返答は一切いただけておりません。
私は2025年3月24日、以下の指摘を含む文書を、エンドクライアントも含め関係者全体に送付しております。
【指摘の骨子(再掲)】
・貴社が介入した一連の業務には、非弁行為(弁護士法違反)の疑いがあります
・統括責任者の指示のもとで行われた組織的関与の可能性があり、刑事・民事の両面での違法性があると考えています
しかし、全証拠とともに、反論・弁明の機会を提示しているにもかかわらず、貴社はこれに対して沈黙を続けています
この状態で、万一パーソルキャリア株式会社が、
エンドクライアントに対し「本件のプロジェクトに関する報酬請求」を行う場合、
以下の懸念が生じます:
1. 契約内容に重大な違法性が指摘されているにも関わらず、反論や釈明が一切ないまま請求を行う行為は、エンドクライアントに黙認を強いることになります
2. その結果、エンドクライアントが共犯的な立場に巻き込まれかねません
3. 貴社は現在、私の指摘に反論も謝罪もしていないため、結果的に「事実関係の黙認」という構図が発生しています
上記の通り、貴社の対応によっては、
エンドクライアント自身が不正行為を黙認した構図になり、企業としての信用を大きく損なう恐れがあると考えます。
そのため、以下の点について、明確なご回答をお願いいたします。
【質問事項】
1. 上記のような刑事・民事上の問題が指摘されている状態で、エンドクライアントに対して本プロジェクトの報酬請求を行うご予定はありますか?
2. 仮に行う場合、それはどのような法的根拠および社内判断に基づくものでしょうか?
3. 本件について貴社としての正式な見解を、いつ・どのような形で公表/説明されるご予定でしょうか?
ご返信のない場合、
「重大な違法性の指摘に対し、企業としての対応を一切とらないまま、エンドクライアントに請求を行った」
という構図が成立します。
また、エンドクライアント自身に悪意がなかった場合、「パーソルキャリアは自社のコンプライアンス問題を放置しながら、何も知らないエンドクライアントを一方的に共犯関係に巻き込んでくる会社である」という見方も妥当性を帯びてきます。
上記のメールでは、「パーソルキャリアの活動には組織的な違法行為への関与が疑われ、この状況でエンドクライアントに報酬を請求すれば、クライアントも共犯関係に巻き込む構図ともなりかねない。これで請求を行って大丈夫か?」という内容の質問をしている。
メールの全文を含めた経緯の詳細は、下記記事にて公表している。
資金を受け取るNPOにも、受け取りには説明可能性が求められる
近年、社会的信頼を基盤とするNPO・公益団体にとって、寄付元企業のガバナンス・レピュテーションは避けて通れない評価指標となりつつある。
とくに、シブヤ大学のように市民の自主的な参加や学びを支援する理念型NPOにおいては、資金の透明性や倫理性が損なわれれば、参加者・講師・地域社会との信頼関係が根底から崩れかねない。
本件のように、HiPro問題のパーソルから資金提供を受ける場合は、
- 寄付元企業が、
- 売上の出所に違法性の疑いを抱えており、しかもその疑惑がきわめて高い確度であり、
- しかもその疑義を一切説明しないまま沈黙を続け、
- 結果的に「寄付」という形式で印象操作を図っている
という話として、NPO側もその企業の「イメージ戦略」に利用されたと受け取られるリスクを、資金提供を受けることにって負わされる可能性すらある。
業界関係者を代表して、日経も報道に乗り出すべきだ
このように、パーソルが他社を巻き込んだCSR活動をすることにより、パーソルの社外にも混乱・動揺は広まっている。本件は、パーソルの社外の人間を代表して、ジャーナリズムのノウハウをもつ日経がパーソルに事実確認を行い、その確認結果を報道すべきではないだろうか。
とくに日本経済新聞は、パーソルが新サービスをリリースしたり、新たな企画を発表したりするたびに、まるで「企業広報の手伝い」とも見られかねないような、過度に好意的な報道を繰り返してきた。であれば、パーソルに向けられた違法性の疑義が社会に拡大し、動揺が広まる現状にも、日経は検証報道を行う責任があるのではないだろうか。
日経のパーソルに対する報道姿勢の疑義は、下記記事でも詳細に解説している。
まとめ:善意は、説明責任によって支えられる
CSRや寄付活動そのものを否定するつもりはない。
だが、本業において社会的説明責任を果たしていない企業が、その資金を用いて「善意」のふるまいを行うとき、そこには常に背理と危うさが伴う。
今回の事例が示すのは、寄付という行為そのものが公共性を保証するものではないという現実である。
むしろ、寄付の「出どころ」が不明瞭なまま公共セクターに流れ込んだ場合、その行為そのものが新たな信用リスクや社会的不整合を生む可能性がある。
今後、パーソルグループがガバナンスに関する疑問に正面から向き合う姿勢を示さない限り、このようなCSR活動も、いずれは“説明責任を回避するための広報戦略の一部”として逆機能的に働く危険性がある。
公益団体・市民社会側としても、寄付を「受け取る側のリスク」として冷静に捉える視点が求められる局面にきているのではないか。
あわせて読みたい参考記事
パーソルグループのCSR・アカウンタビリティについて
パーソルグループはCSRとして、まず説明責任・アカウンタビリティの問題の徹底が重要であることは、2025年4月時点から採算パーソルは指摘をうけていました。
また、AIの活用にも意欲を燃やしている状況とみられますが、やはりアカウンタビリティに現状弱みをかかえるパーソルにおいて、AI活用の領域で今後重大な経営課題が噴出する可能性は非常に高いと予想されます。
ITフリーランス支援機構について
本記事のメインテーマは、「パーソルの共同でCSRの企画に取り組む業界関係者の連帯責任」でしたが、その関連では、ITフリーランス支援機構の責任についても社会的に広く議論される必要があります。同機構も、フリーランスの就労環境の向上を理念に標榜していますが、失踪したパーソルの野村鉄平氏を幹事としてホームページに掲載を続けるなど、団体としての透明性には大きな疑念が提起されています。





