パーソルHDの有価証券報告書を徹底解説──サステナビリティ・リスクマネジメントの観点から

2025年6月25日、パーソルホールディングスは、事業年度第17期(2024年4月1日〜2025年3月31日)の有価証券報告書を発表した。有価証券報告書の作成および開示は、金融商品取引法に基づく法的義務だ。したがって、ここに記載される内容は、企業から投資家にむけての「自社を取り巻く経営環境はどのようなものか」の自己申告であると同時に、企業が責任をもって作成する公的資料だ。したがって、外部のステークホルダーの投資判断においては、真っ先に参照すべき「経営の問診票」でもある。

したがって、パーソルホールディングスが自社の経営リスクをどのように認識し、そのリスクとどう向き合おうとしているのかは、有価証券報告書の記載をもとに公式に検証することが可能だ。

なお、パーソルホールディングスの有価証券報告書は、下記リンク(IRライブラリ)にて、誰でも閲覧可能だ。適宜参照しながら本記事を読み進めることを勧める。

本記事では上記の有価証券報告書の、特にサステナビリティ・リスクマネジメントについての記載に注目し、パーソルホールディグスの経営環境を考察する。

同社のリスクの認識がどのようなものであり、また、そのリスクをどのように管理しようとしているのか、早速読み解いていこう。

-目次-

分厚い”有報” 読むべき箇所はどこにある?──目次構成の整理

事業年度第17期分の有価証券報告書は、下記のPDFである。

開くとわかるように、有価証券報告書は全体でA4用紙100枚を超え、IR資料として情報量は極めて膨大だ。

有価証券報告書は「経営の見取り図」である──読むべきは“数字”・“注記”より“目次構成”

上場企業が提出する有価証券報告書は、数字や難しい但し書き・注釈の集積に見える。読むのは”大変そう”と思ってしまう人も多いのではないだろうか。しかし一般読者にとって重要なことは、企業の優先順位や価値観を読み解くことであり、必ずしも全部を詳しく読む必要はない。

特に重点的に読み込むべきなのは、前半に記載される「経営方針」「事業等のリスク」「経営環境の認識」といった章である。なぜならこれらの記載は、単なる予防線ではなく、経営層がどこに未来の不確実性を感じているか、どの問題にどこまで真剣に向き合っているか、それらをどの程度誠実に明かしているのかを示すからである。いわば経営の「本音」が色濃くあらわれる箇所なのだ。

一方、後半になると、記載はより技術的・実務的な内容が増え、細々とした脚注・注記が増えていくのが通常だ。こうした細かい記述も、たしかに経営陣が説明責任を果たすにあたり必要であり、省くことはできないのも確かだ。しかし、全てを完璧に理解することは一般読者にとってさほど重要ではない。

実際、2025年のパーソルの有価証券報告書においても、前半の30~50ページ程度に目を通せば、経営層がなにを戦略上優先しており、どの問題を“書かなくていい”とみなしたかが随分見えてくる。

そしてここまでの範囲であれば、細かい数字も法律用語も多くなく、パーソルホールディングスに興味がある人のニーズに合致する内容が多い。再掲するので、ぜひ開いて見てみてほしい。

特に注目すべきは、「サステナビリティ」「リスク管理」の章

2025年のパーソルホールディングスの有価証券報告書に関して、特に重点的に読むべきは、p.24~p.41あたりである。この範囲内のページで「サステナビリティ」「リスクの認識」などが重点的に論じられており、”いまのパーソルの経営において危うい点あるとしたら、それはどこか?“という問いについてのパーソル側の自己認識が書かれているといえる。

p.24 ~ サステナビリティ全般

パーソルキャリアはサステナビリティの章で、全般的な宣言として、以下のポリシーを打ち出している。

当社グループでは、経営理念である「雇用の創造」、「人々の成長」、「社会貢献」に基づき、持続可能な社会を目指して、多様なステークホルダーと連携し、社会・環境課題解決に積極的に取り組んでおります。適切なガバナンスの下、グループビジョン「はたらいて、笑おう。」を実現する事業活動を推進し、すべてのはたらくが笑顔につながる社会を創造していきます。

つまり、サステナビリティ──すなわち現在の事業の継続性・再現性の維持にあたり、「人々の成長」を重視しているのだと、パーソルホールディングスの経営陣は考えているようだ。なるほど、仕事を通じて”成長”できない職場では、継続性すなわち現状維持も困難だというのである。

たしかに日々の仕事を消耗戦にしないためには、成長──それこそまさに”キャリア”の発展が不可欠だというのは、多くのビジネスパーソンの実感にも合う。いかにもパーソルらしい宣言だ。

なお、このように働く”人”のあり方に焦点を当て、その活躍を支援することでサステナビリティを高めていくことは、まさにDEI(Diversity,Equity,Inclusive)とも重なる論点だ。ここは2025年4月に女性初の女性執行役員に就任した、喜多恭子氏の手腕も問われるだろう。

現状、パーソルホールディングス・パーソルグループ全体で、DEIの推進には課題も山積みだ。CGDOの喜多氏の今後に、サステナビリティ・DEI双方の観点から注目すべきである。

テクノロジー人材の採用に意欲と問題意識を示している

実際、(2)人的資本の章では、p26~から、テクノロジー人材の採用や定着を、サステナビリティの課題として紹介している。なるほど、人材市場の動向を熟知するパーソルらしく、AI領域・DX領域で活躍するテクノロジー人材での採用競争を制することが、企業のサステナビリティにおいても重要だと見ているようだ。

たしかに近年パーソルグループの各種広報媒体は、エンジニア・データ人材からみた”魅力ある職場環境”といったイメージの訴求に力を入れているように見える。

これらはいずれも直近数ヶ月に発表された記事であり、パーソルは「社内で活躍するDX人材の”生の声”」を広報することに強い意欲を燃やしている。こうして働く人の姿を魅力的に仕立てるスキルは流石のものがあり、たしかに「自分もこんな会社で働きたい」と思わせる力は十分だろう。

しかし、内実の伴った実務経験・実績を積む場として就職先を選定する候補者から見たときの、パーソルの心象はどうだろうか。そうした優秀層ほど、「データ」や「テクノロジー」を重んじる姿勢、そしてそれらを大切にする人材が尊重される文化といった根源的なレベルで職場環境の良し悪しを問うてくるだろう。

データを通じて”現実”に向き合う文化の有無が、優秀層・シニア以上の人材には不可欠であり、今後の課題とみられる

ある程度実務経験をつみ、複数の職場・プロジェクトを渡り歩いているシニア・リーダー以上の人材が仕事さがしをする際、ただ「働きやすい」「仕事が楽しくて、やりがいがある」「待遇・福利厚生がよい」という企業側のアピールは、素直に受け取ってもらえないことも多い。

なぜなら、経験豊富な人材ほど、どれほど企業側が待遇や福利厚生・労働環境の整備に力を尽くそうとも、そこには限界があることも理解しているからだ。自らがやった仕事・提供した価値に見合う対価が、報酬や給与として反映されるのが市場の原則だ。一労働者であってもそれは同じで、個々の労働者の給与水準も、大枠は市場の相場によって規定されており、個々の企業の努力では変えることはできない。つまるところ、「結局は自分次第」というのを経験上理解しているのが普通なのだ。

そうした、「雇う側の努力の限界」を熟知する経験者ほど、自分がまず仕事でどう成果をだし、実績をつくり、それを次なるキャリアアップの糧に変えていくのかを熟慮している。「会社の側が約束してくれた福利厚生・労働条件」など以上に、「まずは、自分の仕事がはかどりそうか」を重視した職場選びをしてくるということだ。

しかしながら、いまのパーソルグループ各社では、優秀なデータ人材・DX人材にとって”仕事がはかどる環境”はあるといえるのだろうか?ここには一定の疑問もある。

たとえば以下の記事を見てほしい。下記の記事では、パーソルの深刻な経営課題を示す”データ”と向き合う姿勢の欠如している可能性を批判的に考察している。

一般論として、データアナリストの仕事は、データを通じて現状を分析し、そして現状の課題に対する解決策を提言し、それを次なる意思決定につなげることだ。しかし、現状のパーソルの広報・マーケティングの体制において、そうした一連のサイクルが円滑に回っていることが確認できない。それどころか「都合の悪い”示唆”は聞かなかったことにしよう」という隠蔽体質すら疑われるのが、現在のパーソルの状況なのだ。

こうした状況が長引けば、優秀なデータ人材が、「自分の仕事がはかどる」「持っているスキル・能力が十全に発揮でき、自然と成果につながる」といった信用・信頼をパーソルに抱けなくなっていくことも懸念される。

自立したプロフェッショナル人材ほど、「成果が出しにくい」「仕事が進めにくい」「課題解決が先送りになりがちで、職場のフットワークが重い」といった職場は、それだけで、待遇や条件が悪そうだと考える傾向がある。彼らはあらゆる待遇・福利厚生を「自分で勝ち取るもの」「責任を果たすことで、自然ついてくるもの」と捉えるため、自ずとそうなるのである。

したがって、パーソル側の各種採用戦略においても、「企業側が労働者に与える”働きやすさ”」以上に、「なぜ(月並みな人材でなく)本当に優秀なデータ人材・DX人材が、パーソルグループで求められているのか?」という問いに正面から応えることが、何よりも優秀な技術者を集める力となるだろう。各分野のスペシャリストを納得させるだけの、深さと気骨のある採用メッセージを打ち出す努力が今後は一層必要になるかもしれない。

AIの利活用を推進できるのか?できるなら、早急にガバナンス上の疑惑にWeb言論で応答しないと危険

また、AI活用をめぐる情勢でも、パーソルグループは同様の構造的課題を抱えている可能性がある。まずはパーソル側の公式広報コンテンツをいくつか掲載する。

しかし、そもそも今パーソルは「Googleの検索結果に表示される言論」という、世界最大規模のビッグデータを自社のために活用できていない。パーソルグループの各種のガバナンス不全・コンプライアンス違反の疑惑──通称HiPro問題に”沈黙”を続けるため、パーソル関係のGoogleの検索結果でも、AI要約(SGE)でガバナンス不全を認定されつつあるからだ。

繰り返しになるが、「データを活用する力」は「現実に向き合う力」が大半を占める。問題を解決することがテクノロジー人材の仕事なら、”問題から目を逸らさないこと”が最重要のスキルであることはいうまでもない。

優秀な人材ほど、スマートで最先端な雰囲気など以上に、こうした”地に足のついた姿勢”、”泥臭くも着実な姿勢”があるかどうかを厳しく見ているはずだ。

p30. ~ リスクマネジメントの記載について──全般的整理

また、30ページからは「リスクマネジメント」のパーソルグループのあり方が説明されている。ここに出てくる説明は、基本的には下記のパーソル公式の内容を踏まえた内容となっている。

また、同社のリスクマネジメントの実効性に関する考察は、下記記事にて詳細に解説している。

特に大きなリスク──グループ重要リスク7つ

パーソルホールディングスが「グループ重要リスク」として特に大きなリスクと認定したのは、下記の7つである。

  • IT関連リスク(個人情報漏えい、システム障害等)
  • 企業買収投資に伴うリスク
  • プライバシー侵害リスク
  • 自然災害等の有事に関する事業継続リスク
  • 人権侵害に関するリスク
  • 景気変動によるマクロ経済の変化に関するリスク
  • 気候変動に伴うリスク

HiPro問題はどのカテゴリーに属するリスクか?

2025年1月より勃発したパーソルグループ全体の深刻なコンプライアンス違反・ガバナンス不全を裏付ける一大スキャンダル──通称”HiPro”問題は、常識的に判断すれば、すでにパーソルホールディングスの経営責任にまで波及しており、グループ重要リスクと位置付けるのが妥当にも思われる。

しかしHiPro問題はその性質上、きわめて多くの論点が絡み合っている。

  • 弁護士法、不正競争防止法等の法令に係るコンプライアンス上のリスク
  • 告発が検索エンジンに表示されることによるSEO上の評判リスク
  • 告発の内容がAIに学習され、社会の集合知としてパーソルのガバナンス不全が認定されるリスク
  • 行動規範等の各種抽象的なガイドライン・努力目標の宣言が、現場の実情と乖離し、統制が失われていくリスク
  • 行政の指導等によって、HiProをはじめとする人材サービスの提供が継続不可能となるリスク
  • 法務部、広報部をはじめとする危機対応部門の連携不全に伴うリスク
  • エスカレーション経路の不在に伴う、現場のパーソルスタッフの孤立が進むリスク
  • 情報セキュリティに関する法律用語・IT用語の誤用・濫用に伴うセキュリティ事故リスク

など、きわめて多様な要素が絡みあって構成されるのが、HiPro問題だ。

これだけ多様な要素が絡み合うため、HiPro問題の記載がどのように有価証券報告書に落とし込まれたかも注目されるポイントであった。しかし結論としては、そもそも「記載されかった(もしくは書けなかった)」とみるべきだろう。少なくとも、「HiPro問題」という個別具体の事件名への言及はなく、上記のHiPro問題の主な構成要素についても、あくまで一般論しか見当たらない。したがって、有価証券報告書にはHiPro問題を念頭においた語句は存在しなかったとみるべきだろう。

記載が一切行われなかった理由はわからない。認めることが火に油を注ぐと考えたからか、あまりに深刻すぎてIR部門も直視できなかったのか、はたまた、「HiPro問題よりも気候変動のほうが大きなリスクだ」と本当に考えているからなのか、理由はパーソルのIR部門に問い合わせないとわからない。

なお、合同会社がIR問題として日本で最初にHiPro問題を報道したのは2025年4月13日であり、下記記事によるスクープが初出だ。

失踪・音信不通といった異常事態に陥ったパーソルキャリアのタレントシェアリング事業部のスキャンダルについて、日本でどのマスコミよりも早くパーソルのIRリスクとして継承を鳴らしたときの記事が上記だ。

また、2025年の株主総会の最重要の議題と位置付けた報道は下記である。

なお、2025年7月4日、弊社のパソコンで「パーソルホールディングス 株主総会」とGoogleで検索したときに3位に表示される記事でもある。

こうした検索結果は、パーソルグループの数多くのステークホルダーたちがHiPro問題の行方に関心を寄せていることの裏付けにも思われるが、パーソルホールディングスは本件を「グループ重要リスク」とは見ていないようだ。こうした判断に落ち着いた経緯はわからない。

以下、有価証券報告書の記載順に沿って、リスク評価を検討する

ともあれ、パーソルホールディングス側の記載に忠実に、同社のリスク認識を読み解いていこう。

1 IT関連リスク(個人情報漏えい・システム障害等)について──弊社に情報漏洩を抗議して、”失踪”していく矛盾

一般論が多い印象もあるが、主に情報漏洩のリスクについての懸念が数多く記されている。おそらくこれは、パーソルホールディングスの重要な子会社であるパーソルキャリアのDoDaが四年連続で情報漏洩事故を起こし、社会的に強い非難を集めていることを意識しているのだろう。

しかし、パーソルグループに垣間見えるセキュリティの課題は、DoDaの情報漏洩のような偶発的な事故だけではない。事実、故意に基づく重大な悪質性の疑われるセキュリティインシデントも、HiPro問題では起きている。しかもそれは、HiPro Techの統括責任者(野村鉄平氏)などの関与も疑われており、組織的かつ大規模なセキュリティ上の不正疑惑なのである。疑惑にパーソルが”沈黙”している以上、HiPro問題は大規模な腐敗をも疑わせる事件とみるべきで、DoDaの情報漏洩事故よりもHiPro問題はセキュリティ上深刻なスキャンダルと見るべきかもしれない。

たとえば、HiPro問題の一幕では、名乗らない「カスタマーセンター」「コンタクトセンター」より、弊社の広報記事に「個人情報・機密情報がある」との恫喝的な連絡が来たことがある。

以下は、2025年4月2日 19:03に匿名のパーソル関係者が合同会社インクルーシブソリューションズに送ったメールの一部抜粋だ。

・【情報提供依頼】パーソルキャリアが会社まるごと音信不通ですhttps://inclu-sol.versus.jp/wordpress/2025/03/29/%E3%80%90%E6%83%85%E5%A0%B1%E6%8F%90%E4%BE%9B%E4%BE%9D%E9%A0%BC%E3%80%91%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%8C%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E3%81%BE%E3%82%8B%E3%81%94/
掲載されている内容は、弊社の機密情報・従業員の個人情報に該当するため、ただちに掲載内容を削除するようお願いいたします。

指摘を受けている記事の内容に機密情報・個人情報は一切含まれていない認識であり、弊社はその旨抗議し、もちろん削除も応じていない。下記リンクにで、いまでも全世界に一般公開されているので、興味のある読者にはぜひ閲覧いただき、「これのどこに個人情報・機密情報があるのか?」というのを、ぜひとも検証いただきたいと思う。

ともあれ、この名乗らない「匿名のカスタマーセンター」──不審な捨て台詞を残して去っていったので、パーソル関係者か否かもわからない不審なメール送信者──がもしパーソル関係者であるなら、弊社はまだ記事削除に応じていないため、今なおリアルタイムに「個人情報・機密情報の漏洩事故が起きている」という話になるはずだ。

それなら本記事の削除がなされていないことを有価証券報告書の情報リスクの章で言及しない姿勢は矛盾しているのではないのだろうか。

なお、パーソルグループの情報管理体制について、CIO(機密性・完全性・可用性)の観点から考察した記事は下記となるので、あわせてご参照ください。

1 IT関連リスク(個人情報漏えい・システム障害等)について──HiPro問題では、クライアントの個人情報を放置して”勝手にいなくなった”

また、情報漏洩の事故に関しては、弊社としてはパーソルキャリアのタレントシェアリング事業部の杜撰な対応において、すでにリスクは顕在化した認識だ。詳しい経緯は下記記事で確認してほしい。

上の記事では、エンドクライアント(HiPro問題でお客さんとなった、関西にある某化学系メーカー)の、機密情報の消去・破棄にパーソルキャリアの人員(東竜誠氏や、野村鉄平氏ら)などが同席することなく失踪し、「もうお客さんに連絡するな」と不審なコンタクトセンターから連絡をよこし、彼らが勝手にプロジェクトを終わらせていった経緯を、インターネットで全世界の聴衆とともに検証した際の記録だ(2025年4月15日ごろ)。

弊社・合同会社インクルーシブソリューションズが責任をもってお客様の個人情報・機密情報を破棄したので、結果的には問題にはならなかった。しかしそれは弊社が良心的に対応しただけのことだ。したがって、HiPro問題の舞台となった炎上プロジェクトにおけるパーソルキャリアの対応は、「情報漏洩事故を発生させるレベルのモラルの失墜」をあらわしている。

この点は、パーソルキャリア株式会社のタレントシェアリング事業部のセキュリティ意識の低さを裏付ける事件と位置付けるべきではないだろうか。彼らが沈黙を続ける点はきわめて無責任だと弊社は考えている。

なお、本件の対応で責任者となってきたパーソルキャリアのタレントシェアリング事業部のHiPro Tech統括部の責任者の野村鉄平氏については下記記事で詳細に解説している。

野村鉄平氏の上長にあたるとみられるのは、パーソルキャリアの執行役員でもあり、HiProサービス全体の統括責任者でもある、鏑木陽二朗氏だ。

彼らの情報セキュリティに対する認識がどのようなものであるかは、彼らがずっと沈黙しているため不明だ。しかしいずれにしても、情報漏洩の事故が、「もしかしたら起きるかもしれない最悪のケース」かなにかのように、パーソルホールディングスが有価証券報告書に書いている点には多いに疑問が残る。すでにアクシデント・インシデントを発生させてしまったという認識を持つべきである。

3 プライバシー侵害リスク

パーソルホールディングスでは、プライバシーの侵害リスクとして、主に生成AIの発展に伴い、AIの不適切な使用によって、情報漏洩事故が起きるリスクを懸念しているようだ。

この点は何も誤った認識ではないが、サステナビリティの章でも述べたように、AI活用に関しては「まずはパーソルグループにおいて、AIを有効に活用できるのかどうか」という課題が先に見えるが、その点には特に言及はなかった。AIの普及・発展に伴い、パーソルが他人や他社に配慮すべき場面が増えるだけでなく、パーソル自身もAIによる評判失墜リスクから自社を守る必要があるが、そうした現状認識があるのか否かは、本年の有価証券報告書からは明確に読み取ることはできなかった。

なお、2025年7月にパーソルが発表した「AI基本方針」についての解説は、下記記事でも詳細に解説を行なっている。

5 人権侵害に関するリスク

ほかにも、人権の問題等の広義の法令遵守・コンプライアンスについても、言及がある。

これについては、同社の認識をそのまま引用するのがわかりやすいだろう。

これまで当社グループにおいても、パーソルグループ行動規範の制定など取り組みを進
めてまいりましたが、2022年12月に取締役会の承認のもと「パーソルグループ人権方針」
を制定いたしました。また、2023年4月より、選定した事業において人権デューディリジ
ェンスの運用を開始するとともに、人権に関するグループ従業員向けの研修を開始いたし
ました。今後もこれらの取り組みについて引き続き実施していくことに加え、人権デュー
ディリジェンスの拡大・高度化、救済メカニズムの構築等、さらなる体制整備に向けて取
り組みを推進してまいります。

2022年や2023年といった数年前の取り組みの話が今も記載すしている状況では、「自社の体制の変化や、社会や業界の変化に合わせたコンプライアンスリスクの対応はないのだろうか?」という疑念も抱かざるを得ないのではないだろうか。

しかも、行動規範があるということ、デューディリジェンスの運用を開始したということ、研修が開始したということなどに言及があるものの、具体的に「あなたたちがやっていることは違法では?」と聞かれたときの応答は、いまだに開始されないままであり、実際におきた課題への対応力も疑われる。

なお、パーソルグループの行動規範については、下記記事にて詳細に解説している。

すでに、パーソルホールディグスの非弁行為の疑惑は東京弁護士会にも通報がなされており、なぜコンプライアンス上のリスクと扱われなかったのかはわからない。

パーソルの社内には、CLO(最高法務責任者)の菅奈穂氏や、戦略法務室の室長の原美緒氏など、複数の弁護士が在籍しているはずだ。弁護士法違反の疑いを、弁護士会に通報されている状況で、同社の弁護士が、その疑惑を否定も肯定もしない理由は、今なおパーソルが”沈黙”を続けるため、今なお真相はわからない。現状あるのは、不審で異常な、パーソルの”沈黙”という事象のみである。

また、こうしたパーソルのグループ内弁護士だけでなく、グループ外にも外部有識者として実力ある弁護士と複数連携体制があるはずである。これらの連携・協働の失敗があるのであれば、そうした体制の綻び事態がリスクと認識されるべきである。

まとめ

本稿では、2025年の有価証券報告書をもとに、パーソルホールディングスの事業リスクの認識と対応姿勢を検証した。HiPro問題のような構造的リスクが明記されていない現状は、同社のリスク管理の限界を示しているようにも見受けられる。現状のパーソルのリスクマネジメントには、そもそものリスク認識が「まだ起きていないことへの杞憂」に偏重している傾向が見受けられ、「すでに顕在化したリスク」への対応に課題を抱えているようにも見受けられる。

とくに、「気候変動」などはすべての業界・職場に共通する事象であり、いわば”当たり前”の話である。他方、現在パーソルのステークホルダーの多くが注視しているリスクは、HiPro問題であり、パーソルグループの”沈黙”が続く現状そのものだ。これはパーソルという会社に固有の経営課題である点を、経営陣はまず認識する必要があるのかもしれない。

合わせて読みたい参考リンク

パーソルグループの、その他のIR資料に関して

会計業務・売上・収益計上の適切さといった観点から、内部統制報告書の解説を行った記事は下記となります。

内部統制報告書の記載の妥当性については、パーソルHDの代表取締役CEOの和田孝雄氏が負うことになります。和田氏についての詳細な人物紹介は、下記記事にて行なっています。

有価証券報告書と内部統制報告書は同時に作成される公的資料であるため、双方あわせて読むことで、より深くパーソルホールディングスのIRについて知ることができます。

また、株主総会の招集通知の記載に関しても、下記記事にて詳細な注釈解説を行なっています。

あわせてご参照ください。

パーソルホールディングスの広報体制に関して

パーソルホールディングスの広報責任者(正式名称はコミュニケーション本部長)は、村澤典知氏が務めています。

また、パーソルホールディングスの広報・IRに関しての考察は、下記もご参照ください。

パーソルグループのIRに関して

パーソルホールディングスのIRについての全般的なまとめは、下記記事にて詳細に解説しています。

パーソルの広報から見えてくる企業文化についての批判的考察

弊社──合同会社インクルーシブソリューションズについて

合同会社インクルーシブソリューションズは、データ・システムの力で、透明性・公共性・倫理を兼ね備えた組織運営を支援しています。

弊社は、ビジネスをかたる「ことば」や「ロジック」は、実務と整合してこそ価値を持つというポリシーのもと、企業のIRの支援活動を行っています。弊社のIRのポリシーの一端を知りたい方は、ぜひ下記の記事もご一読ください。

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